猫とのふれあいと音楽が織りなす、朝の癒やし時間~セレクトCDショップ店主のチルタイム~

猫とのふれあいと音楽が織りなす、朝の癒やし時間~セレクトCDショップ店主のチルタイム~

2022/04/19

「音楽×朝」をテーマに、レコードストアや音楽サロンの店主を取材している『.flag Magazine』。今回はCDのサブスクリプションなど、これまでにない発想で新しいことに挑戦し、音楽と出会う機会をつくりつづけているセレクトCDショップ「more records」(埼玉・大宮)の橋本貴洋さんにお話を伺いました。

 

「インターネットには難しい、音楽との出会いをつくる場所でありつづけたい」

more recordsへの想いをそのように語る橋本さんが音楽に深く興味を持つようになったのは、中学1年生のとき。アイルランドのロックバンド・U2との出会いがきっかけでした。

 

「邦楽と全然違ったU2の楽曲にすごくショックを受けました。それから音楽の奥深さに目覚め、音楽専門チャンネル“MTV”でさまざまなジャンルのアーティストに触れるようになって。学生時代は気に入った音楽のCDを買っては、家でじっくり聴く生活を続けていました。私が今、セレクトCDショップを運営しているのも、このときの音楽体験があるからかもしれませんね」

 

そんな橋本さんは大学卒業後、自身の経験もあいまって「良い音楽を世の中に届ける仕事がしたい」と大手CDショップに就職。お客さまの音楽への反応を直接知れることにおもしろさを感じつつも、10年ほど勤めるなかで、次第にやりたいこととのズレを認識するようになりました。

 

「音楽配信サービスが台頭してくるなかで、アイドルの楽曲を中心に特典をつけることでCDを買ってもらうケースが増えていきました。純粋に音楽を売ることができなくなってしまったんですね。でも、私は本当に良い音楽とお客様との出会いをつくりたかった。それなら自分でCDショップを経営してしまおうと、勤めていた会社の退職を機に2011年からmore recordsを始めました」

 

more recordsに置いてあるCDはインディーズ作品のみ。すべて橋本さんが聴き込んでセレクトしたものです。

 

「お店に置く音楽は、時代のトレンドや音楽的なおもしろさといった観点から、あらゆるジャンルの作品をバランスよく選んでいます。昔のように音楽との偶然な出会いが難しくなっている今の時代だからこそ、うちのような『じっくりと音楽を探せるCDショップ』が必要だと思うんですよね」

 

さらに、現在は「音楽の裾野を広げる活動」にも注力しているといいます。自社レーベルやお客さま同士のコミュニティ(Facebookグループ)の運営、毎月橋本さんがセレクトしたCDを宅配するサブスクリプションサービス、SNSでの情報発信など、これまでのCDショップにはない発想で、新しいことに挑戦し続けています。

 

「これまで通りのやり方では、CDショップの未来はありません。コミュニティを通じてお客様の声を聞き、次の取り組みに活かしたり、日本でリリースしていない海外アーティストの作品を自社レーベルからリリースしたり、できることは何でもやってみるつもりです」

 

そんな橋本さんの最近の癒やしは、飼い始めたばかりの子猫・ミミちゃんなのだそう。朝のルーティンもやはり「猫のお世話」から始まります。

 

「ずっと猫を飼いたいと思っていて、ペット可の物件に引っ越したんです。1年くらい様子を見てミミに出会い、半年前から一緒に暮らし始めました。だから、私の1日はミミの鳴き声で始まります(笑)  まだ寝ている私を起こしに来るんですね。それで、ごはんをあげたり、お世話をしているうちにスッキリと目が覚めて、今日も1日頑張ろうと思えてきます」

 

自宅に猫がいるからこそ、帰宅することでリラックスタイムへの切り替えも自然とできるようになったと語ります。

 

「ミミが本当にかわいくて。家に帰れば、すぐにリラックスタイムです。自宅では、ミミと遊びながら音楽を聴いています。猫も好きな音楽がその時々で変わるらしく、毎日違ったジャンルの曲をかけているんです。これまで以上にいろいろな音楽に触れることができていて、ミミとの暮らしが実は仕事にも良い影響を与えてくれていると感じています」

 

朝のチルタイムにおすすめのプレイリスト

今回は春から初夏の朝時間をイメージしながら、比較的新しくリリースされたアルバムからおすすめの音楽を選んでいただきました。厳選したインディーズ作品を扱うmore recordsの店長だからこそ選べる、今注目の海外アーティストの音楽で、心が穏やかになる時間を過ごしてはいかがでしょうか?

 

 

  1. Rosie Frater-Taylor「Just My Type」from『Bloom』

    ロンドン出身、20代の若手シンガーソングライター Rosie Frater-Taylor(ロージー・フレイター・テイラー)。2018年にデビューアルバム『On My Mind』をリリース後、2019年にはイギリスのトップジャズメディアで注目アーティストに選出。「まるでジョニ・ミッチェルとパット・メセニーが出会ったようだ」「ジョン・メイヤーの女性バージョン」と海外で絶賛されている、今注目のアーティストです。


    「ピュアでナチュラルな歌声とアコースティックギターの音で一日の始まりを爽やかに。晴れた朝には特によく似合う曲です」(橋本さん)

  2. Ghostly Kisses「Heaven, Wait」 from『Heaven,Wait』

    2曲目は、フランス系カナダ人のシンガー・ソングライターで、マルチ・インストゥルメンタリスト、マルゴー・ソーベ によるソロ・プロジェクト Ghostly Kisses(ゴーストリーキッシーズ) の最新アルバムから選曲。


    「この曲は、浮遊感のあるサウンドとミステリアスなボーカルが特徴的なドリーム・ポップです。朝から少しずつ気分を高揚させたいときにおすすめの1曲ですね」(橋本さん)

  3. Seabear 「Parade」from『In Another Life』

    アイスランドのインディー・フォークポップバンド、Seabear(シーベアー)。長きにわたる活動休止期間を経て、2022年3月に12年ぶりとなる新作アルバム『In Another Life』を発表。今回はその新作アルバムから「Parede」を選曲しました。


    「美しいストリングスとコーラスワークが、穏やかな時間を演出します。まるでアイスランドのゆったりとした朝を切り取ったかのような、リラックス感あふれる楽曲です」(橋本さん)

  4. Coco 「Empty Beach」from『Coco』

    インディーポップを奏でるトリオ・Coco。アメリカのインディーシーンを2000年代から牽引するDirty Projectors(ダーティー・プロジェクターズ)の現メンバー・マイア・フリードマンとLucius(ルシウス)のダン・モラド、Pavo Pavo(パヴォパヴォ)のオリヴァー・ヒルの3名が、それぞれの才能を活かして楽曲を制作しています。


    「ゆったりとした音楽の中に響く男女3声ハーモニーは、どこか懐かしい感覚で朝から元気も貰えますね」(橋本さん)

  5. Mary Lattimore「We Wave From Our Boats」from『Collected Pieces: 2015-2020』

    アイスランドのポストロックバンドSigur Rós(シガー・ロス)やアメリカのインディーロックバンドReal Estate(リアル・エステート)など、数々の海外アーティストから賞賛されているアンビエントハープの才媛 Mary Lattimore(メアリー・ラティモア)。米国ロサンゼルスを拠点としながら、エフェクターを駆使した独自の演奏スタイルが注目を集めているアーティストです。


    「忙しい朝に少しでもリラックスした時間を持ちたいなら、この曲がオススメです。ハープの心地良い音の粒がチルな時間を演出してくれます」(橋本さん)

プロフィール

橋本 貴洋 / Takahiro Hashimoto

1998年に東京電機大学を卒業後、「音楽に関わる仕事がしたい」と全国展開する大手CDショップに入社。仙台、神戸、大宮など各地の店舗で、ジャンル担当や店長、本部バイヤー、エリアマネージャーなどを経験。約10年勤めた後、楽曲のデジタル配信が進む中でも、リアルな音楽との出会いをつくるべく2011年にセレクトCDショップ『more records』を設立。音楽に深くハマるようになったきっかけは、中学1年生の時に出会ったアイルランドのロックバンド・U2。

more records 公式HP:http://morerecords.jp/

Twitter:https://twitter.com/more_records

YouTube:https://www.youtube.com/user/morerecordsPV/playlists

 

ライター / 市岡

人の話を聞くのが好きなライター。星野源さんをこよなく愛しつつ、最近ハマっているのはCityPop。

(取材日:2022/04/07、 取材地:more records、 編集:佐藤 史親、 撮影:ひらはらあい)